自分で読むなら:小学中学年から --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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兄、『たかし』がトナカイの頭の剥製に戯れに復活の呪文を唱えたその時が、太古の昔、陰謀と裏切りによって討たれたトナカイの王『はやて』の心臓の骨に三億たびの月の光が注ぐ瞬間――約束された復活の時でした。
二人は復活に巻き込まれる形で異世界へ。そして、自分達の世界へ帰るために、駈け去った『はやて』を追っていやおうなく旅をします。
次々に巡り会っては別れる動物達。彼らは一様に兄妹を、預言された『来るべき二本足の子』と呼びました……。
粗筋だけを書くと、可愛くて気の良いキャラクターものの動物達に囲まれて、選ばれた子供達が珍道中を繰り広げる冒険物に思えるかもしれません。「異世界に転位すると、君はすべての人が待ち望んでいた救世主」という造りは珍しくもないでしょう。
しかし、この話は、苛酷です。
動物達は決してヌイグルミではなく、生きるために食い、強いものにほふられるリアルな生き物として、いや、単に人間とは別の種族というだけの――たとえば宮沢賢治の小説に出てくる動物のような――この国の住民として描かれています。生活感があり、土着的です。
原罪と弱肉強食の食牡連鎖。生態系のバランス。それが仮借無い現実として、主人公達に突き付けらます。
生き伸びるために殺すのは許されるか――という問いに簡単な答えなどあろうはずなく、この物語はありがちな妥協点を最後まで示しません。兄『たかし』は妹の信頼を失い、妹『ゆうこ』は青イヌの手に落ちます。
単なる巻き添えでこの世界につれてこられたと思っていた兄と妹は、勝利を約束する『来るべき二本足の子』として、トナカイと青イヌの両陣営の象徴となり、惨たらしい全面戦争の渦中に巻き込まれるのです。
何をなすべきで、誰を信ずるべきか、飽くまで自分自身の判断に任されます。
もちろん理想像として描かれるトナカイの王『はやて』は、雄々しく美しいです。
しかし、作者は自然に対する征服者たらんとする青イヌの王『夜風』もまた、ある種の信念を持った美しい存在として描きます。
必ずしも悪でなく、必ずしも善でない多くのキャラクター達は、そのどちらをもそれぞれの割合いで持っている、地に足を着けた、それぞれに愛おしい存在として。
「何が味方で何が敵なのか、何がほんとうで何がうそなのか、見分けることはむずかしくとも、ぼくは、きっと、信じるものを選びとるよ……」
『たかし』が『はやて』に、心で話し掛けるラストシーン。そう簡単明瞭に善悪が示される程、世界は単純ではないのだから、『ぼく』が、考え抜いて、選ぶことこそが大事なのだと、『たかし』は学んだのだと思うのです。
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