本書は、鉄道忌避伝説を否定した本である。明治初期の鉄道が宿場町を通らずに敷設されたのは、宿場町の住人が反対したからではなく、鉄道技術・土木技術上の制約があったからだと論じられている。また鉄道忌避伝説が広まった原因として、地方史や小学校副読本で、鉄道忌避伝説がとりあげられたことを挙げている。
著者の主張は、当時の敷設計画案・住人の請願書・当時の土木技術史料・当時の市街地分布図・地形図などを分析する形で行われている。「この勾配では汽車は走れない」「当時の土木技術ではこういう地形に鉄道を敷くことができない」といった技術的側面からのアプローチ、「所有権上の問題から市街地の中に通すことはできないが、できるだけ市街地の近くを通すように請願していた」「元々通す計画がなかったのに、てぎるだけ近くに駅を通すように請願していた」といった史料分析アプローチの両面から、鉄道忌避伝説が嘘であることを明らかにしている。「鉄道会社史」の側面が強かった鉄道史に、地理学・歴史学・土木工学的な視点が加えられた点が面白いだろう。
私がこの本に興味を持ったのは、鉄道忌避伝説の例として岡崎をとりあげていたからである。岡崎の鉄道忌避伝説については、地元住人ということもあり、色々聞いたり読んだりしたことがある。だが、大正時代に建設された今の名古屋鉄道(本書図中の大平川と丘陵地の間を走る)が、当時の市街地を外れた街はずれを選んでいることから、伝説に疑問を思いつづけていたのだ。本書は、勾配上東海道沿に設置できない点や、無理矢理岡崎に近づけた形跡がある点などを証拠に伝説を否定した。長年の疑問を解消してくれた、納得のいく結論と論旨である。