前文で著者が断っているように、鉄道情報を細かく開陳するような鉄ヲタさん向けの本ではなく、鉄道から近代や都市を考えるコラムが40ほど。しかし、鉄道といっても、鉄道文学や駅弁、駅そば、海外鉄道と内容は豊富だ。鉄道に関心があるという程度の人には、へえと感じさせる情報も多く、この種の人に一番向いているのではないかと思う。
著者が日本近代史・皇室の研究者であることから、天皇に1章を割くなど、鉄道を通した歴史の記述が続く。また、かつて各地で独立して経営されていた駅そば店、駅弁店が次々とJR傘下のチェーン店に変わり、味が画一化されていく様を「駅そばの死滅」と痛烈に批判するなど、自身が少年時代濃い鉄道ファンだったころを懐古するコラムも多く、遠くなってしまった「昭和」の香りが立ち込めてくる。ほかにも、同書中に多々登場する福知山線脱線事故本の教訓として、また汽車旅ファンとして、今のJR(とりわけ西)の速度至上主義を止めるよう主張するなど、独自の主張も展開する。宮脇俊三の二番煎じではあるそうだが、擬人化された鉄道路線が生き生きと語り合う「全線シンポジウム」も読みどころ。
講談社のPR誌に連載されていたため、時々刻々変わる鉄道事情により、情報が古くなっている点もあるが、各回に付された細かい補注で最新事情を補っていて親切だ。ひとつ足りなかった思うのは、P110に日本一駅名が長い駅として登場する「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前駅」。これは2007年5月に駅名変更して日本一を返上する。まだ、変わってはいないとはいえ、すでに明らかになっていることなので、入れるべきだったろう。
コラムで数ページで次々と違う話が出てくるので、ブツ切れ感は否めないが、読んでいて、著者とともに、日本各地、世界各地へ、また昭和の時代を旅するような楽しさを感じることができる。