この巻に納められている『デッドクロス殿下の巻』は忘れられない作品です。
初のロボット大統領が誕生しようとしている国があります。
それを妬んだデッドクロスという人間の一党が大統領就任を阻止しようと妨害工作を続けています。
就任演説を行う日が近づくにつれ、それは露骨な攻撃になってきました。
遂に、アトムに応援を求めます。
ロボット秘書官の下半身がアトムの家に迎えに行くシーンから物語は開始されます。
この冒頭の場面の印象があまりにも強烈でした。
この巻には昭和34年から36年に懸けて発表された作品が掲載されています。
手塚先生の未来を見る目が鮮やかであったのとロボットを差別する人間を描いていることは凄い、と改めて感じます。
当時アメリカの公民権運動などから世界中に潜むこの問題が人々の視界に入ってきました。
手塚先生は、それは絶対的な悪だということをアトムを通して伝えたかったと思うのです。
単行本化に際して書き入れた手塚先生が登場するプロローグがとても楽しいです。
ウランちゃんがいつから登場したのか忘れてしまったので、お茶の水博士やヒゲオヤジ先生に電話を架けるのですが答えが見つかりません。
「作者のくせに」とウランちゃんが飛び蹴りを見舞います。
手塚先生の作品にはサービス精神が溢れています。
愛情の込められた作品を今でも読み続けられるのは本当に幸福なことだと思っています。