ハンサムで妻も詩人…話題の新進作家に興味を持ち、本を手にした。日常の風景、旅先の出来事が、静かなエッセイのように語りだされる。詩集はあまり読んだことがなかったが、すうっと溶けこめた。場面は、肩に力のはいらない、平易なことばで綴られる。テレビのメイク室でドーランを塗る。淡々と進む作業…ふと顔を上げると、鏡の中に、事故死した父親の死化粧の姿が重なる。日常のさりげない場面から、ふと呼び覚まされる記憶、そのイメージの転換がドラマチックで、これが詩だと思った。題材は、父親の記憶、子供のころの原風景、そしていま家族との静かな日常だ。著者の目線はどこかユーモラスであたたかく、悲しみや怒りなど生な感情はろ過されている。詩人の感性そのものをおそらく共有はできないが、なにがしかの悩みを抱える自分も、包み込まれ、身をゆだねるように、詩のイメージの世界にあそんだ。水のようにブルーをベースにしたすがすがしい装丁は、表題作の川をイメージしている。言葉の穏やかな流れのなかに、釣り糸をたれ、記憶の一こまが浮かび上がるのを待つ…そんな時間が持てる1冊だと思った。