東北で震災が起こった。その時久しく忘れていた「釜石」の地名を報道で聞いた。80年代中盤まで新日鉄釜石ラグビーは強いなんてもんじゃない最強のラグビー集団だった。その中学時代からラグビーにハマっていた僕は全日本選手権のテレビ中継で大漁旗の波がひらめく光景を今でもはっきり覚えている。ラグビーファンのみなさんには馴染みのない方だと思うし、余談だが著者の上岡伸雄氏はアメリカ純文学の前衛的な作品の名翻訳家として名高い人だ。僕は「上岡伸雄ってラグビーファンだったんだ!」と朝日新聞の本書広告を観て驚いた。
とにかく釜石は強かった。天才スタンド・オフ松尾を中心として展開されるパワフルでスピーディーな戦術に敵う相手は皆無だったと言っていい。本書には所謂ラグビーエリート=大学までスターとして活躍し、綺羅星のような人材を登用するのではなく「叩き上げ」で鍛えられた集団で形成されている事を描く。ラグビーは原則としてパワースポーツである。つまり筋力がピークに達する二十代中盤からが最も充実した選手キャリアとなるため、練習量は遙かに多い学生が社会人に勝つ事は至難の業だ。だが、僕は釜石の練習がハードな学生時代を過ごした選手にも「すごくきつかった」と言わせるほどハードで密度の濃いものだと本書で初めて知った。釜石常勝当時僕は「なんでこんなおじさん達がこんなに早くて凄いのか・・・」と驚きの眼で試合を観ていたものだ。
その釜石も今はもう無い・・・。そして震災で町は崩壊したままなのだろう。震災にかこつけてでっちあげた内容ではなく、長期の取材に基づいたしっかりしたノンフィクションである。