西側世界の金融システムは急速に巨大なカジノ以外の何物でもなくなりつつある―スーザン・ストレンジ教授は1988年、自著『
カジノ資本主義』でこう慨嘆した(岩波現代文庫p.2)。そして20年後の2008年、ジャック・アタリ博士は「世界は、どうしてこんな事態に至ってしまったのであろうか?」(本書p.25)と、先ず疑問を投げ掛け、次いで世界金融危機の要因と経過、さらに金融(カジノ=コカイン)資本主義への具体的な処方箋(緊急プログラム)、最後に金融危機後のパースペクティブなどを当書で縷説する。取りわけ、G20などの政治指導者等には是非とも目を通してもらいたいと思う書物である。
著者のアタリ博士は07年、サルコジ大統領から「フランス経済成長解放委員会」(通称「アタリ委員会」)の委員長を依嘱され、数々の提案を行っているようだ。ただし、本人はミッテラン元大統領の補佐官を長く務め、「サルコジに助言はするが、彼には投票しない」と公言していたそうである(訳者あとがき)。それはともかく、こうした人物が政権に参画することに羨望を感じてしまう。というのも、鳩山新政権で「国家戦略局」なるものが設置される見通しだが、まさにこのような組織にこそ博士級の逸才が必要と思料されるからだ。勿論、かつてのエコノミック・ヒットマンもどきの学者先生は御免被りたい。
それはさておき、本書第2〜3章では史上初の世界金融危機の状況に関して、07年2月から09年9月までの出来事等をクロノロジカル(時系列的)に詳述している。私としては、系統的に事態を追跡していた訳ではないので、このドキュメントは大変参考になったが、それらの部分を読み飛ばしても十分価値ある書冊と言えよう。また、〈中心都市〉〈市場民主主義〉など博士独特のキー概念も散見されるけれど、関心のある方は『
21世紀の歴史』などを繙読されると良いだろう。なお、博士は「経済危機を超える地球規模の危機」として「気候変動」の問題を提示しているが、この点では私と意相を異にする。