おそらく現在全世界のプロの金管奏者で故・アーノルド・ジェイコブス氏の影響を間接的にも受けていない人は少ないだろう。テューバの世界では大半の人が弟子か孫弟子、曾孫弟子であるし、その他トロンボーンやトランペット、ユーフォニアム、ホルン、果てはヴァイオリン奏者までが門下に連なっている。この本はこれまでありそうでなかったその「ジェイコブス語録」である。
本書に明記はされていないが、この本のジェイコブスの言葉は公開レッスンの録音等から集められたように見受けられる。そのため必然的に同じような文言が繰り返し登場する。その一方で各個人向けと思われるやけに具体的なアドバイス(ブレスの練習では何秒間吸って何秒間吐け、唇を外側に向けると低音が出しやすいetc.)も飛び出す。
何の予備知識のない人がこの本を読むとこれは「精神論」の本なのかと思ってしまうかも知れない。氏の教授法は根源的なアプローチであり、だからこそ普遍性があってテューバ奏者のみならず他の金管やそれ以外の奏者さえも導くことが出来るのだが、それだけに最後にはどうしても抽象的な話になる。しかも繰り返されるのでなんだか「宗教的」に感じられるかもしれない。
こうした言葉を紙に書かれた文章だけで理解するのは不可能だ。もう少し具体的な解説が欲しいと思った方にはクリスティアン・ステーンストルプ著「ティーチング・ブラス」をおすすめする。こちらはジェイコブスの解説書と銘打ってる訳では全然ないが、まさにそのような内容である。
本書「〜かく語りき」はページ数のわりに高価でもあるし、万人におすすめするものでもないが、金管奏者の「バイブル」として本棚に置いておくべきものであると思う。道順を教えてくれる地図でもガイドブックでもないが、目指すべき星の位置を示してくれる天体図である。