湯川先生は「物理講義」の中で「『既に創られた物理学』を学ぶことと、その物理学が創られた当時に創った本人が考えたことは全く違うんです。もしどちらも同じと思っている人は試験勉強だけをしてきた人です(笑)」と仰っています。本書を読めば、その真意がよく分かります。自分が学んできた量子力学は確かに理路整然としているのですが、「こんなのどうやって思いつくの?」という心のモヤモヤが残っていた訳ですが、本書のような「時間軸に沿った量子力学の発展史」を読むとそのような疑問も氷解します。過去の偉人たちが如何に量子力学を発展させていったのかが良く分かります。先人達は現代風解説に基づく「量子力学の法則の思い付き方」(例:Hamiltonianにおけるp_x→h/2πi・∂/∂x, E →ih/2π・∂/∂tの置換え)を最初から出来ていた訳ではないのです! 「暗黙知」から「形式知」に表出化する際に、過去の知見に基づく独特なアナロジーを理論物理屋さんは行う訳ですが、そういう思考の足跡をフォローするのに良い本だと思います。
このような「系譜を知る」本として、「スピンはめぐる」(朝永振一郎)、「X線からクォークまで」(エミリオ・セグレ)、「新版 電子と原子核の発見」(スティーブン・ワインバーグ)も読んでおきたいですね。朝永先生の「量子力学」も同時にお薦めです。本書で舌足らずになっている箇所をこれらの本でかなり補うことが出来ます。本書はかなり歯ごたえがある本であり、量子力学初学者には少しお薦めしにくいという点で★1つ減。(「現代の量子力学」(J・J・サクライ)レベルの本が理解出来る読者なら、★5つの刺激が得られることでしょう)
【追記】本書はめでたく復刊しました(→
量子論の発展史)。
吉田氏監修版とページ数が違っていますが(376頁→541頁)、これは本文のフォントが大きくなったため。あと、江沢洋先生が補訂を若干加え、解説(25頁)を寄せています。(かわりに吉田氏が寄せた文章は消えました)
吉田氏監修版を持っている方は買い直す必要は特にないと思います。