野球には「左投手には右打者を当てろ」といった勝利への定石や、「ピンチの後にはチャンスあり」といった定説があります。これらは長い年月を経て生み出さた経験則と言えるでしょう。本書では、日本のプロ野球の2005年度データを元に、経験則である野球の常識を実証的に検証しています。
本書で使われている検証方法は、学術論文で用いられるような統計的検定ではなく、平均値や確率の大小を比べる大変シンプルな方法です。このことは、検討結果の信頼性は高くないものの、結果が理解しやすいという大変大きなメリットがあります。数字が苦手な方であっても、ジンクスを数値から実証するという思考方法の入り口を本書は垣間見せてくれます。
本書の結果は、サンプルの大きさや検証方法の限界から暫定ではあるものの、検討された全23個の定石や定説のほとんどはデータから支持されませんでした。
このことから「定石や定説は嘘ばかりだから信じない方が良い」と考えるのは単純すぎるでしょう。それよりも私は、私たちが元々持っているの信念によって、事実がいかに巧みに合理化され記憶されてゆくか、逆に言えば、事実がいかに歪められて記憶されてしまうか、という心の働きの不思議さを見せつけられた気がします。