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野川 (講談社文庫)
 
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野川 (講談社文庫) [文庫]

古井 由吉
5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)

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商品の説明

出版社/著者からの内容紹介

すべて過ぎ去り、しかも留まる。
戦後半世紀余の時空を往還し喧噪の彼方へ耳を澄ませば、幽明の境に死者たちはさざめき生者は永遠の相へ静まる。
傑作長篇小説
お互いにいたわり、助けあって、深みへ入って行く。長い道を二人して来た末に、女の眼がうすく開いて、瞼をちらちらと顫わせ、笑みを浮かべて遠のいていく顔つきになりながら、背にまわした腕に力をこめてくる。大勢の交わりを、ここで交わっていた。済んで並んで仰向けになった後から、女の息がもう一度深くなる。遅れて家中に息が満ちるように聞こえた。それも静まってまどろみかけた頃、あたしたち、こうして、死んでいるのね、もうひさしく、と女はつぶやいた。(本文より)


--このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

内容(「BOOK」データベースより)

急逝した友人の一周忌近く、故人からの遺贈として届いた一枚の絵地図。友人が好んだ野川の散歩道を描いた絵の片隅で、大人が子供の手を引いていた。それは子を妊った娘の未来像か、東京大空襲の翌朝に母親と歩いた荒川土手の風景か―。はるか時空を往還し、生と死のエロスの根源に迫る、古井文学の到達点。

登録情報

  • 文庫: 384ページ
  • 出版社: 講談社 (2007/8/11)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4062758253
  • ISBN-13: 978-4062758253
  • 発売日: 2007/8/11
  • 商品の寸法: 14.8 x 10.6 x 1.8 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)
  • Amazon ベストセラー商品ランキング: 本 - 250,676位 (本のベストセラーを見る)
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夢か現か…… 2006/4/27
形式:単行本
 読みながら何度かまどろみ、はっとして先を読んだ……というのが古井作品の場合は褒め言葉だ。なぜなら作品の語り手も、たいていは寝入りばなのまどろみにあるようだから。

 繰り返し語られるのは、友人が大空襲に遇った幼い日、半ば眠りながら母に手を引かれて歩いた時の情景と、別の友人が、青年の頃、下宿の年上の女主人と奇妙な関係を結んだ夜々の情景なのだが、空襲の日に病の父が焼死したのではないか、という語り手の疑問は解かれず、下宿の女主人も、生きているのか死んでいるのか判然としない謎の女だ。そのうちに友人からの聞き語りと語り手自身の回想も入り混じるように思われ、しまいには、この作品と過去に読んだ古井作品も、自分の中で入り混じる。

 そもそも生きるとは夢と現の間を揺れることなのかも知れず、亡くなった友人井斐はまだ生きているように思われ、逆に毎年同じような年賀状のやり取りをしている友人内山はもうこの世にいないように思える。こういう世界観を、言葉の力だけで起ち上げるのが、古井作品の凄さだ。その凄さに、何度も改めて魅了される。

 まどろみつつ時間をかけて読み、最終章「一滴の水」にたどりついてふいにはっきりと目が覚め、食い入るように読んだ。十八歳の頃、語り手と井斐が、土曜の放課後の屋上で遭遇した銀杏の大木の黄葉の禍々しいまでに鮮やかな光景、そして語り手の行き着く境地……あるいは人は死後を生きているのかも知れず、肉体の死は、こんなふうに唐突に訪れるのかも知れない。
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10 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By shos
形式:単行本
この作品での語り口は、かつての饒舌さが失せ、古井の心の奥底から言葉が、立ち現れるかのような趣がある。その中から、人の優しさがそこはかとなく香り立つ。とにかく美しい作品だ。   
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7 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:単行本
読み終えたとき、これはある種の遺書なのではないか、と思った。古井氏の、古井文学の、そして文学それ自体の遺書なのではないか、と。
大袈裟な言い方かもしれない。
しかし、この作品のなかで起こっている事態はただ事ではない。なによりも、言葉の存在論的な無重力化ともいうべき出来事が、従来の古井節を廃棄する形で、ひそかに生起してしまっているということ。この実に特異で奇跡的な〈軽さ〉をおのれの書法において実現してしまった後で、なおも文を書き継ぐことが果たして可能なのか? この作品を「ある種の遺書」と呼んだのは、まさにこの意味においてである。
にもかかわらず、この作品を書き終えた古井氏は、まるでなにごとも起こらなかったかのような涼しい顔で、すぐさま新たな連載(『辻』)に取りかかる。
いやはや、おそるべし、と言うほかない。
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