野口英世の伝記は,子供用のものまで入れたら何十冊と出版されている.その中でも,本書は最も新しい.従って,過去の知見をすべて採り入れ,さらに最も正確かつ斬新な切り口...と期待すると裏切られる.
野口の医学的業績については,多くの疑問が明らかとなっており,従来の評価は過大評価であったというのが,現在の研究者の一般的見解だろう.さらにこの見解に対する反論を含め,関連する論文や研究書は多い.しかし,本書はこの点についてほとんど論じていない.従来の「野口英世は偉かった」路線を見事に踏襲した「偉人伝」である.新しい知見や分析はない.本書を読まなくても,ちょっとWikipediaでもみれば「波乱の人生」であったことはよく分かるわけだし,何故にいまさら本書が出版されたのかは甚だ疑問である.
また,著者の医学,自然科学の知識不足は否めない.医学専門書ではないので,メクジラたてるほどではないにしても,医学的な細部については不正確なところが散見されるのが気になる.
総じて「野口英世はやっぱり偉かったんだ!」と感動を期待する向きには本書は好適だろう.おそらく今後ともこのスタンスの伝記は,屋上屋を重ねて出版され続けるのだろうし,まあ,そうさせる力を秘めているところが野口の偉いところなのかも知れない.