そもそも経済学は、複雑怪奇な現実世界の事象を「単純化して突き詰める」学問であるため、現実世界と経済学の世界との間には常にギャップが存在することを考慮しなければならない。そうした経済学の基本ルールを解説した書としては、これまでにも
『経済学思考の技術』(飯田泰之著)などがあったが、本書は、かの
『「超」整理法』でお馴染みの野口氏によるもの。一般人が経済学および経済学者・エコノミストに期待しがちな「経済学で金持ちになれるのか?」「経済学で未来を予測できるのか?」といった俗論に対して、理論的にノーを突きつける様は読んでいてためになる。
しかし、単なる「経済学思考の解説」で終わらないのが野口氏の真骨頂(?)。章が進むに連れて、自身の構造改革論を経済学的に立証する内容とへとだんだん変容して行く。例えば、比較優位(役割を分業化・専門化すれば効率が増すという理論)を用いて「食料は自給せず全て輸入で賄った方が効率的」「石油も中東で買った方が効率的」とする主張には、リスクマネジメント観が著しく欠如している。「ビジネスなんだから顧客へ売り惜しみはしまい」って、どんだけ性善説に立ってるんだか。この他にも、「企業規模は小さい方が機動的」と言ったそばから「資本金の小さい企業は信用できない」と続けるなど、支離滅裂な主張が散見される。その一方で、「『貯蓄から投資へ』はまず企業が実践しろ」「法人税減税は経済活性化には繋がらない」など秀逸な論があり、内容はまさに玉石混交。
本書の冒頭で「7人のエコノミストがいれば、8つの異なる答がある」「経済学者の答えは極めて正確だが、その答えはまったく役に立たない」というジョークが紹介されているが、他ならぬ著者自身がその罠に陥っている。まあ、そんな著者の道化ぶりを含めて「これが経済学というものか」と学ぶには格好の入門書と言えよう(汗)。