大正元年、片田舎の農村、あまり裕福とはいえない家庭に生まれながら、高校教師、4児の母としての生涯を全うした作者の実母の一代記。全部が読ませどころのような力作だが、特にヒロイン・律子の父親に強く惹かれた。欠点も多い人物で、幼い日の律子はこの父を憎むが、やがて相似の父娘として理解しあい愛情を深めていく過程は感動的だ。いわば父娘鷹なのである。この父と母が穏やかな晩年を送るくだりは、読んでいてしみじみうれしい。
時に「坊っちゃん」のように痛快で、あるくだりは「二十四の瞳」さながらに泣かせる。葦原すなおにしてはかなり生真面目に書かれているが、随所で見せるとぼけたタッチは相変わらずで、前振りなしにいきなり結婚の話に突入するあたりは笑わせる。