著者は、新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『オーデュボンの祈り』で言葉を話すカカシを登場させ、『陽気なギャングが地球を回す』では、特殊能力を持ったギャング団一味を軽妙なタッチで描いてみせた伊坂幸太郎。奇想天外なキャラクターを、巧みなストーリーテリングで破綻なく引っ張っていく手法は、著者の得意とするところである。本書もまた、春という魅力的な人物を縦横に活躍させながら、既存のミステリーの枠にとらわれない、不思議な余韻を残す作品となっている。
伊坂流「罪と罰」ともいえる本書は、背後に重いテーマをはらみながらも、一貫して前向きで、明るい。そこには、空中ブランコを飛ぶピエロが、一瞬だけ重力を忘れることができるように、いかに困難なことであっても必ず飛び越えることができる、という著者の信念が感じられる。とくに、癌(がん)に冒されながらも、最後まで春を我が子として支援する父親の存在が、力強い。春が選んだ結末には賛否両論があるに違いないが、「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」と春に語らせた著者のもくろみが成功していることは、すがすがしい読後感が証明している。(中島正敏) --このテキストは、 単行本 版に関連付けられています。
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21 人中、17人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
ミステリーではなく家族の物語,
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レビュー対象商品: 重力ピエロ (新潮文庫) (文庫)
ハッキリ言ってしまうと、ミステリーにしては浅い。春の秘密や放火事件に関しても、まあ先の読める展開ですので、ミステリー好きには物足りない展開だと思います。 この作品の良いところは、一貫して爽やかなところ。 テーマ自体がもの凄く重く、書き方によってはひたすら暗く、救いようのない感じになりますが、 この作品はそれを美しく描きだし、爽やかさを保ったまま走っていく。 大きな起伏もなければラストにどんでん返しもない。 読者が裏切られることもありません。 しかし、一貫して軽い文体だからこそ、読後感はすっきりしています。 ただ、伊坂幸太郎の特徴でもある、作品間のリンクや知識のひけらかしが微妙かも。 話自体は面白いのに、妙にリンクさせたり、知識をひけらかすことで話が膨らみすぎている感が否めません。 良くも悪くも伊坂作品だなという気がしました。 個人的には話が面白かったので☆は3つです。
20 人中、16人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
読めばよむほど・・・,
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レビュー対象商品: 重力ピエロ (新潮文庫) (文庫)
「どうして両親が春を生んだのか」これは最大の謎だった。読み進めていけば決定的な理由、「何か」が描かれてくるはずだと思っていたけれど、 そんなものないんです。それが私には衝撃だった。 もし自分の近くに強姦されできた子供を自分の意思で産んだ人がいたら、その子供が苦しんでいたなら、 私はいったいどう思うだろう。 「生まれてくる子の事を考えなかったのだろうか、浅はか、普通産まないだろう」 そんな風に軽蔑していたかもしれない。少なくともこの本を読むまでは。 どうして人は自分が正しいと過信するのだろう、 自分は他人より奥深く考え、物事を客観的に見て、物の価値や基準が分かっている。そう信じている。 なんの葛藤も考えもなく安易に選択するなよ、と人をバカにする。 本当の葛藤や覚悟なんて本人にしかわからないのに。 「そのこと」について一番考えているのは他ではない当人なのに。 春の犯罪もそうですよね、他人から見れば薄っぺらい、大したことでもない理由で罪を犯す若者。 でも、どうしても割り切れないものってあるよね、悪だとしても「それ」をどうにかしなきゃ、 結局いくら生きても前には進めない、戻ることもできないことってあるよね、ってこの本読んで思いました。 それでも春は悪人です。それがとても悲しい。 一回じゃこの本の良さは分からないと思います。 私は二回目には涙とまりませんでした。 今四回目を読み終えてのレビューです(こんなに繰り返し読める本初めてです) 春は今後どうなってしまうのだろうと思うと、物語は爽快?に終わりましたが、 やっぱり捕まってしまうんだろうなーと思います。それでも春はきっと謝ったりはしないんだろうなーと。 あ、あと「伊坂さんは超売れっ子作家なのでその力量のほどは?」と 点数をつけたい方には合わない本だと思います。マメ知識多いし。 別にどんでん返しがあるわけでもないですし。 素直に本の好きな人におすすめです。(笑)
58 人中、45人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
重くて軽い美しさ,
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レビュー対象商品: 重力ピエロ (単行本)
久々に日本の現代小説を読みました。楽しませてもらいました。欠点とも取れる特徴のある小説であるため、自分には合わないと感じる方もいるかもしれません。 ミステリーというには謎が入り組んでおらず、文芸というには軽い。家族小説というには現実味が薄い。特に私が気になったのは、春や母親を初めとする登場人物が「いかにも作った」印象を与えてしまうことや、その登場人物たちがとる行動の中に非現実的な点があることなどの、「現実味の薄さ」です。非常に良く出来た小説ではその非現実性も作品の魅力となるものですが、残念ながらこの作品ではそこまで到達していないように思えます。「この小説はちょっと…」という方にとっては、この「現実味の薄さ」と知識を羅列した「饒舌さ」が相俟って拒否反応を引き起こすのでしょう。 しかしこの作品にはそれらを補って余りある爽快な美しさがあります。この小説の良さを一言で言うなら、「重いテーマを軽いタッチで描いてみせる美しさ」です。 猿人・原人とホモ・サピエンス、レイプという犯罪の本質、親殺し・子殺し、芸術とは、少年犯罪と法律、などと表面に見えるテーマは様々ですが、それらを語る語り口はいずれも軽快です。テーマの「重さ」と文体の「軽さ」。これらの「重力」を操り、爽快な美しさを現前させること。これが作者の目指したことなのではないでしょうか。
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