こいつは迂闊だった。
行きつけの書店で何冊かまとめ買いをした際、「ゴールデン街」とのタイトル表記に、これはてっきりカウンター・カルチャーの巣窟、新宿ゴールデン街の文化史を社会科学的に考察した新書なんだなと、著者も確かめないまま購入したのだが、読み始めてびっくり。
これはかって小川紳介の同伴者として、そして劇映画に活動の場を移してからも、「さらば愛しき大地」や「ションベンライダー」、「ユリイカ」と言った傑作を撮った名カメラマンたむらまさき、ならぬ田村正毅と呼んだ方がしっくりする著者の、自己の人生とゴールデン街との関わり合いを綴った一編、こちらの思惑とは外れたが、あの喧騒とした激動の季節からこの街で飲み明かしてきた体験を元に回顧録を語ることで、ゴールデン街の歴史とその果たしてきた役割が垣間見える構成となっている。
岩波映画出身と呼ばれることへの嫌悪、小川紳介との確執、同じく名カメラマンの鈴木達夫や姫田真左久らとの交流、意外にも角川映画で仕事をしたかった等、60年代後半から80年代にかけての日本映画を観続けた者にとっては懐かしく興味深い裏話を読むことが出来る。
個人的には、「三里塚・辺田部落」での農民たちの、闘争よりも生活の日常を凝視し続けたその素晴らしい仕事ぶりの背景に、小川や記録映画なるものへの距離を感じていたとの話は予想外だが、氏のその時の思いが、後に「さらば愛しき大地」での、あの美しい風にそよぐ稲穂の名ショットに繋がっていったのかも知れない。