この作品は、「肉筆画の題材絵の1コマから始まり、おなじみの登場人物が酒と肴をお題にしたショートストーリーを展開し、1句で6ページを締める」というスタイルです。
このように定型詩のごとく制約の多いスタイルを貫き、長期連載している本作品に対して、ワンパターンという批判はお門違いです。マンネリ批判をしている読者は、この作品に何を求めているのでしょう??
作者は15年以上もこのスタイルを続け、このジャンルのトップランナーでありながら現役のフロンティアでもあり続けています。
新刊の「う」における鰻のみならず、魚、居酒屋メニュー、寿司、麺、蕎麦などおよそ他者の追随を許さない超ニッチなジャンルでの精力的に活動しているというのは、驚異的ですらあります。
数多ある著書の中には、出版社の粗雑な扱いにより、ガッカリする単行本もありましたが、本作「酒のほそ道」はどれを取っても間違いのないクオリティをキープしています。
「酒のほそ道」が王道的ライフワーク、他作品は冒険するフィールドワークといった位置づけでしょうか。読者もその覚悟は必要なのかもしれません。
さて、29巻の見どころはやはり作者エッセイ「最後の晩酌」でしょうか。今わの際にこの当代随一の呑兵衛作者が何を飲み、何を食べるかをシミュレーションする企画です。
その他、流行のノンアルコールビールを扱った一本もありながら、やはり定番の味わいでした。★5つということもなければ★1つということもない、いい意味でいつものクオリティです。
なお、絵柄を批判される方もおられるようですが、私は正直初期の単行本と比べても現在の絵柄のほうが好きです。これは個人の嗜好の問題で、わざわざ押し付けがましく喧伝するような話題ではないですね。
失礼ですが、「昔の味は良かった」とか「先代の主人の味には及ばない」だの店内でわざわざわめきちらす酔っ払いと同じレベルと存じます。来るたびにがっかりして文句をいうなら、来なければいいのに不思議なものです。
その店には今の味を楽しむ新顔の客もいて、味の変化を楽しみながら静かに酒を飲んでいる常連もいます。昔からの客が偉いということもないでしょうし、口に合わなくなったら黙って勘定をし、別の店で飲み直すのが「粋」なのではないでしょうか・・・