「都市と都市」という、原題でも日本語訳でも非常に興味は惹くけど小説的魅力はあまりないタイトルが示すのは、範囲が入り組んでいるだけでなく、重なってもいる2つの都市国家。隣を歩いている人でも他国民であれば異質なものとして見てはいけないという国家です。
荒唐無稽な発想に思われるかもしれませんが、本書を読んでみると、そうでもないような。
作中で東西ベルリンのような飛び地との違いは強調されているけれど、人類の歴史を見ると、共同体における不可触賤民とか政治的地位と宗教上の地位の乖離とか、こんな国家が存在しても不思議はなかった要素は大ありでしょう。
その「ありそうさ」加減と、説明的になりすぎず提示される社会通念のほどよさが序盤の大きな魅力になっています。
一方で、人物像に魅力が乏しいのも、この特殊な「見てはいけない」ものが目の前にあたりまえに存在する世界のぼんやりした輪郭のなせる技かと考えれば気にならないし、文化的な設定が無節操に思えるのもこの特殊な地勢を表現しているのかと納得させられる--なんだか欠点を欠点と指摘できないような巧妙な作風だなぁというしてやられた感を抱かされます。
そうして実際のバルカン半島あたりの歴史との比較に思いを馳せて読み進んでいるうちに、今度は事件の展開に引き込まれてゆく。これもうまい構造です。
ミステリを読みたくて本書を手に取る人がいるのかどうかわかりませんが、ミステリの要素もおざなりでなく十分なエンターテインメント性があり、ラストも鮮やか。
でもこの「ありそうでない」手触りはやはりSFならでは。最後まで欠点を指摘したいのに言い出せないような痛痒感を残しながらも、面白かったと言わざるを得ない作品でした。