きちんと過去の研究結果を示し、データを整理して根拠を示している。また、引用されている文献は、学会発表のみの研究、ニュースレターや雑誌などの限定された出版物、政府の報告書、セミナーのテキストなど、少なくともこの世に存在する郵送調査法に関する文献の大多数が網羅されているのではないかと思えるほど。かなり古い文献までも掘りおこしていて、IT技術や個人情報に関する考えが変化した現代においてどれだけ一般化できるかは疑問が残るが、ベースとなっている引用文献に関しては文句の付け所がない。
欧米ではかなりの研究の蓄積がある分野だが、その研究紹介にとどまらず、日本での調査の実態をデータと共に提示してあり、日本人を対象に研究する際にはかなり参考になる。
一つ残念なのは、質問内容に関する記述、というか、質問項目の設定の仕方に関しての考察はあるものの、質問内容のテーマ(消費経済、健康状態や病歴、性行動や価値観などに関するものかなど)によって回答率が左右されることに関してのデータが少ないことだ。この点が希薄なのは、そういう研究が存在しないからなのか。
さらに、個人的には、心理学や医学の疫学的研究で用いられる、標準化された尺度を郵送調査に用いることに関する議論があまりなかったのが残念。
返送率のパターンやその規定要因、匿名性の問題、無回答や非協力者に関するデータなど、調査をする研究者なら一度は疑問に思うような些細な点までもが実証的データと共に議論されている。
調査法の教科書としても最適ではあるが、統計的な部分の記述も適度にあり、実証的研究としても申し分のないレベルだと思う。
予算的、時間的制約により実現が難しい点もあるが、ここに書かれている内容に沿って研究を追行できたなら、日本の質問紙調査研究のレベルは格段に上昇するに違いないと思う。値段に見合っただけの学術的価値はあるお勧めの1冊。