最近良くTVに登場される本郷先生の本なので、読んでみたら面白かった。
能の世界では、梅原猛vs表章論争というのがあり、文献に頼らず、口承による、或いは偽かもしれない文書に立脚した大胆な推論に基づく「世阿弥の南朝末裔説」を梅原が主張するのに対して、古文書に基づく厳密な歴史解釈により、梅原の依拠する文書が最近作られた偽書であり、何故その偽書が作られたかまでを文献学的に論破した表章の主張とが対立している。誰が見ても、梅原の主張は荒唐無稽の感が否めないのだが、もし表章による反論がなければ、世間への影響力の大きさは断然梅原の方にあるので、世阿弥=南朝説が一人歩きしだしたかもしれない。という意味で、本書が力説する文献による歴史の検証の大切さは良く理解でき興味深い。だが、しかし、極度に専門的で、ある意味で瑣末、緻密かつ大変な労力、経験が必要な分野なので、一般受けしにくい(ロマンがないというやつ)ということも良く分かった。
また多くの本が採用している「権門体制論」が実は皇国史観の影響を大きく受けている、という論点も、一部理解に苦しむ点もあるが、興味深い。権門体制論を著者は真っ向から否定しているが、是非学会で論争が進むことを期待する(でも日本の学会の古い体質を考えると、権門体制論が権威である現状を変えようとする試みは大変だろうなあ。)
目から鱗、知的な刺激に満ちた本なので、中世史好き、歴史好きはご一読を。