本谷有希子の名前を知ったのはごく最近だ。誰かが(多分、書評家か評論家だと思うが)どこかで書いていた20代前半で劇団を立ち上げた美貌の才気ある劇作家として彼女が紹介されていたのをたまたま目にしたからだが、学生演劇ならともかく、高校卒業後地方から上京してまもなく劇団を主宰すると言う強靭さと、やはり“美貌”で“才気”と言うフレーズに気が留まってしまった。で、既に幾つか出ていた単行本の中から取り合えずチョイスしたのが今作。昨年の岸田戯曲賞ならぬ鶴屋南北戯曲賞を受賞した戯曲だそうである。ある中学校で起こった男子中学生の自殺未遂を契機に展開する教師たちのディスカッション・ドラマが際限なくエスカレートしていく果てに、ある女性のブラックホールの如く強烈な“闇”が見えてくる。戯曲である為心理描写や心象風景もなく、舞台演出も俳優たちのパフォーマンスも、そして個々の台詞廻しや“間”も読み取れず、全ては登場人物たちの台詞とト書きのみで読み進めなければならないのが難点だが、それでも今作は十分に面白い。人間の持つ自己愛と責任転嫁と思い込みの激しさと大きなお世話的親切心が辛辣かつ滑稽に書き込まれ、それが怒涛の如く進み、しかも凄く上手いし笑える。いかにも社会性を感じさせるテーマでありながら、著者があとがきでそんな事象とは全く無縁の産物と述べているのもイイ。どうやらニッポン放送の「オールナイトニッポン」のパーソナリティもこなしているという彼女の才気を認識しながら、この舞台、さぞ面白かっただろうと、見逃した者としては些か残念。ゆえに★4つ。