1991年に出たハードカバーの文庫化。
1987-88年にケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジで研究を行った著者の生活記。
旅行文学・エッセイとして第一級の出来。著者は数学者だが、文学寄りの人にも科学寄りの人にもお奨め。
ケンブリッジの数学研究者たち、イギリスの人種差別、次男へのいじめ、研究報告の準備など、生活のなかの様々な出来事が包み隠さず語られている。人種差別やいじめの問題に見られるように、苦しいことや辛いことにどのように対応したか、自分の駄目だったところを含めて書かれているから、読者は親しみが持て、感情移入できる。そして現実世界の出来事として実感できる。虚飾や隠蔽ほ排したところに豊かな体験があるのだということを教えられた。
イギリスの事物・人間を描いた文章としてもレベルが高い。一年間暮らしただけでこれだけ深い洞察を得られてしまうのでは、本職のイギリス文化研究者は立つ瀬がない。