『前線から遠のくと楽観主義が現実に取って代わり、また最高意思決定の場において現実なるもの
はしばしば存在しない』
観終わった後、某警察組織の隊長の言葉が思い起こされました。
空挺作戦としては史上最大規模で実施されながら、ノルマンディ以上の死傷者を出す惨敗となった
『マーケット・ガーデン作戦』を描いた77年製作のイギリス映画です。
ドイツ本土進攻のため、交通の要衝であるオランダの橋を占拠することを目的に空挺部隊が降下し、
地上部隊がそれを支援するという作戦は、準備期間も短く、敵の情報も不足していながらイギリスの
モントゴメリー元帥の強い意向で強行されます。事前の航空偵察でドイツ軍のSS機甲師団が存在
することを知っていながら、モントゴメリーの機嫌を損ねる事を恐れて情報を握りつぶす、また無線機
の不調を知りながら報告を面倒がってそのまま放置する、また作戦に消極的な空軍など、問題が山
積したまま開始された作戦が、時間の経過と共に各部隊間の齟齬が拡がり、破局へと向かっていく
様子が克明に描かれています。
何とか橋に辿り着いた空挺部隊のフロスト中佐(A・ホプキンス)が、味方戦車の支援もないまま空挺
装備だけでドイツ軍の機甲部隊と戦うシーンは凄まじい迫力だ。民家に陣取り、部下を励ましながら
小火器だけで戦車と渡り合う中佐をA・ホプキンスが熱演。ハンニバル・レクター博士のイメージが強
いが、ここではタフで勇敢、そして部下思いの男を見事に演じている。
命令系統の不備から敵に補給物資を投下する空軍、クック少佐(R・レッドフォード)の決死の渡河作
戦で進撃路を確保したというのに、『待機しろと言われているから』ティータイムを楽しんで数キロ先で
絶体絶命の危機にある味方を見殺しにする戦車部隊。『戦争で唯一確かなのは、予定通りにはいか
ないということ』という言葉を思い出しますが、作戦の失敗が見え始めると急に『道が狭いのが悪い』
『霧が出たのが悪い』などと互いに責任転嫁を始める司令官達の描写には『会社でもこういうことって
あるよなあ』と感じるサラリーマン諸兄も多いのでは?
イギリス軍主体の映画なので、25ポンド砲の隊列砲撃やファイアフライ戦車など、ハリウッド映画で
はお目にかかれない兵器が多数登場します。またPIAT(バネを用いた対戦車兵器)が登場しますが
、画面を見るとその使いづらさが良く分かります。ドイツ軍側はパンター役のレオパルド(1か?)やナ
ースホルンぽく改造されたAMX自走榴弾砲などが活躍。また空挺降下のシーンでC−47から降下
した落下傘が空を覆うシーンはCGでは出せない迫力で、降下する兵士視点のカメラ映像も臨場感
を高めている。ただ、元々もやが掛かったような映像なので、BD化の恩恵はあまり感じられません。
結局のところ、マーケット・ガーデン作戦はモントゴメリーのアイゼンハワーに対する対抗心が生み出
した、きわめて政治的な作戦だったという説があります。満身創痍で後方に帰還した少将(S・コネリ
ー)に、上官が『この作戦は90%は成功したが、最後のあの橋はちょっと遠すぎたな』と他人事のよ
うに語るシーンがそれを象徴しています。
勝利の興奮も敗北の屈辱も薄いが、そのカタルシスのなさが逆にイギリス映画らしいともいえるか。
ともあれ戦争映画史上の傑作であることは間違いありません。イギリス軍ファンならずとも必見です。