恋愛小説で名を成した渡辺氏であるが、個人的には氏の医学小説が好きである。渡辺氏は、真剣に医学を志しながらも、日本初の心臓移植の闇の部分を告発して医学の世界を去ったという過去を持っている。そして、彼の医学小説には青春を賭けた医学への思いが込められている。
この小説は、虚像に満ちた野口英世を、極めて人間臭い破天荒な人物として描き直したことで、大きな影響を与えた。
そして、偉人から、欠点が多い天才としてとらえ直すことによって、野口の魅力は増したと思う。
しかし、これはあくまで小説である。野口英世には、あまりにも常識破りの面があることは事実であるが、本書ではそれが誇張され過ぎているのも事実である。
私は野口に興味を持ち、定評のある伝記であるIsabel Plessetの、Noguchi and His Patronsを読んだ。Plesset氏の調査によれば、野口にはかなり常識的な面も多くあり、渡辺氏の描く野口は、やや偏っていると思う。
また、野口の医学的業績については、何人かの人々によって再評価されている。そのことも、野口を理解するには大切なことである。
このような欠点はあっても、渡辺氏の小説によって、野口英世が新しい命を持ってよみがえったことは事実である。