大阪のグリーンツダジムに所属するボクサー8人の姿を描いた作品。‘89年に講談社から単行本で発売された作品を文庫化したものである。
8名のボクサーのうち世界王者になった井岡弘樹以外は無名の若者であるが、皆それぞれに事情があり傷を持っている。世界チャンピオンでもなければボクシングだけでは生活できない。それでも彼らは何故ボクシングを続けるのか。ボクシングとは彼らにとって何か?ということが、彼ら自身の言葉で綴られている。
著者は’87年から2年に渡ってジムや試合会場に通い続けるのだが、決して取材のための取材は行わない。著者が練習を何度も眺め、試合を観戦し、彼らと雑談を繰り返すうちに、徐々に彼らが打ち解けて心を開くようになり、著者の質問に気負いを持つことなく自然に答えている様子が目に見えるようである。本当に優れた聞き手だと思う。
そして取材の時期にも配慮がなされている。彼らが試合に敗れた場合、著者は時間を置いてから彼らにその試合のことを訊ねる。その方が、彼らがその試合で何を得、何を失ったかを知ることができるといった面もあるだろうが、これは著者の優しさである。
著者にはこの作品をドラマチックなものにしようなどという気負いは全くなく、彼らを映す鏡のごとく、等身大の彼らを描き出そうとしたはずである。だから、この作品は地味といえば地味である。しかし、普通の若者の悩みや喜びを描き出すのにドラマチックである必要はまったくない。地味だからこそリアルであり、何度も読み返すことが出来るのである。素晴らしい作品である。
なお、この作品に登場する「谷内均」というボクサーのその後は、著者の「咬ませ犬」という作品集で読むことができる。これもいい作品集である。