倍賞千恵子は昭和後期を代表する美人女優である、晩年の笠智衆は共演した女優のなかで一番好きな人は誰ですかとの問いに頬を赤らめながら彼女の名をあげたという、美人女優であるにもかかわらず女優らしいおしゃれとは全く無縁の役柄ばかりを続けた稀な人でもある、今後の作品ではぜひおしゃれなおばあちゃん役が実現すればいいとおもう、
戦後の復興と経済繁栄に何故か取り残されたような不幸を背負った女をリアルに演じられた美人女優は彼女唯一人かもしれない、生活破綻者で不能の兄をかばう妹(男はつらいよ)、服役中の夫をじっと待ちつづける妻(黄色いハンカチ)、逃亡者の愛人を待ちつづけながらも最後には密告する情人(駅)、逆恨みのように兄の復讐を果たす妹(霧の旗)、そして一人で牧場を守る酪農家の未亡人(本作)、など倍賞智恵子ほど不幸の似合う女優、強い意思を持ちながらもなぜか「はかない」印象を与える女、は後にも先にも彼女唯一人でしょう、
私的には本作で最もしみじみさせられるのは武田・このは夫婦が牧場を去るシーン、牧場を背にハンドルを握る武田の目に光る涙である、このはが涙の訳をたずねると武田はこう答えるのだ、「あのねえさんは、なんか不幸なんだ」と、そのとおり、まさに不幸なのだ、若くして子持ちの未亡人となる、家業は北海道の開拓地の牧場経営である、次に選ぶ男も生活力のあるハナ肇ではなく前科者高倉健なのだから、はたから見ればなぜか自ら不幸を呼び寄せるような印象を誰でも受ける、
夜中、高倉が自分を目的に母屋に来たと思えばそれは牛の急病を知らせに来たのだったとわかった後、半べそをかきながら淋しげにセーターを着こむ倍賞の姿を評者は心の底から愛している、おそらく倍賞単独のシーンとすれば生涯のベストでしょう(共演者がいるシーンのベストはもちろん「駅」の居酒屋で高倉と初めて会う場面)、