南北朝時代は厄介だ。中心に外国思想かぶれ(朱子学)の強烈な天皇がいる。この天皇は徒手空拳ながら強い。「理想」や「正統」を振りかざすお方だからだ。対するは地生えの論理(利権調整)に生きる地方者集団だ(武士)。「理想」を持たない側は、万の兵を擁してもどこか分が悪い。相手が天皇なのでさらに悪い。争いは果てしなく続く。しかし面白い時代だ。あらら、と気付けば、公家も皇子も武家のように戦っている時代が現出しているのだ。
この時代の面白さを味わうなら本書である。文章も台詞も簡潔でカッコ良く、一瞬もダレることなく最終頁まで酩酊出来る。
道誉は確かにカッコイイが、「観察者」だ。彼は物語の最初と最後で変わらない。最初から人間が出来ている。影の主役は足利尊氏だろう。「武門の棟梁」という運命に引きずられ、天皇と優柔不断に敵対し、皇子たちを殺し、実弟を殺し、実の息子を放逐する。壮絶な人生を送る、いまいちヒロイックじゃない人物なのだが、造形が大変に魅力的だ。
北方氏には南北朝シリーズとも言える一連の作品群があるが、この作品が一番面白い。しかし本書を堪能したら他の作品も間違いなく楽しめる。『破軍の星』は若き北畠顕家が主人公で、密かにギャル人気がある。『武王の門』は九州の南朝方という珍しい題材を小説に仕立てて一気に読ませる逸品。
しかし後醍醐天皇の皇子たちの運命たるや…貴人に情なしか。思想かぶれの魔境か。