NHKBS−Hiプレミアム8で昨年放送された「戸井十月ユーラシア大陸横断3万キロの旅」は素晴らしいバイク旅のドキュメンタリーだった。2009年7月から10月に走破し、放送されたのは翌年10月だったが、ユーラシア大陸西の果てポルトガルロカ岬から東の果てロシアのウラジオストックまで3万キロを120日かけて通過した国々の現在を素晴らしいカメラマンの映像とともに通過した国々の状況も見事にドキュメントされていた。
戸井さんのその時々のコメントや現地の人々との一期一会の出会いを過去の4大陸10万キロの旅の記憶を絡ませながらバイク旅することの意味を問いつつ進行するドキュメントは、バイク乗りならずとも一見の価値ある作品である。特に、第2回放送の「越境の旅路 中央アジア」はトルコ、イラン、トルキスタン、ウズベキスタン、キルギスが素晴らしい出来で、道で出会った人々の人なっこい笑顔、バザールの熱気、越え難い壁の様に立ちふさがる国境、ソビエトに抑留されて祖国の土も踏めずに酷寒のシベリアで亡くなった日本人のお墓等々、珠玉の一片であり、全篇DVD化が待たれる作品である。
さて、前置きが長くなったが、この本「道、果てるまで」はこのドキュメンタリーを見ずともその文章表現が素晴らしく過去の4大陸の旅の記憶や著名な作家の言葉を挟んで構成され、まるで一緒にバイクで旅しているよう本である。読んでから見ても見てから読んでも良いが、映像と文字の両表現を追体験すればもっと深く戸井十月が何故に還暦を迎えてまで老体に鞭うって12年もかけ5大陸を走破する苦しいバイク旅を続けるかその一端が垣間見れる本である。
なお、先週NHK−BSプレミアムで放送された「週間ブックレビュー」でこの本が取り上げられ、司会の中江友里さんが戸井十月にインタビューしている映像が放送されたが、肺ガンを患い闘病していた事実が明らかにされた。
昨年10月NHKBSでの放送と同時期開催されたセルバンテス文化センターでの「路傍の人 5大陸13万キロの旅の記憶」写真展では元気そのものだった戸井さんが、まさか肺ガンとは同世代としてはショックを受けたが、今はガンも消えて秋にはメキシコで開催されるトライアルに挑戦すると力強く宣言していたので胸をなでおろした次第である。