もっとも山崎豊子らしい作品かもしれない。題材としているのは西山事件。ジャーナリズムのあり方が司法の場に及んだ特異な事件であり、故に、ジャーナリズムのあり方が多方面から考察された事件。それに情事、人間ドラマが絡むのだから、山崎にとってこれほどの題材はないはずだ。なんてったって、西山は山崎と同業の新聞記者。それも、同じ毎日新聞。
華麗なる一族ほど現実からかけ離れているわけでもなく、
沈まぬ太陽ほどには主人公に肩入れされているわけではないので、ノンフィクションとして歴史を回顧しながら、ジャーナリズムについて再考するには良書であると評価できる。
しかし、難点は西山の沖縄時代で終わっていること。西山は2005年に国家賠償請求訴訟を提起し、控訴、上告した。それも棄却されると2008年には外務省と財務省に対して外交文書の情報公開を求めている。
つまり、西山事件は少なくとも西山の中では終わっていないのだ。にもかかわらず、この辺りについては語られることなく、西山の沖縄での生活で話は終わっている。戦後の沖縄で何が起こったかを国民が知ることは重要だが、それを書いた本は他にたくさんある。山崎豊子には現在に至るまでの西山事件の本質と西山の執念とその真意、また、これらを取り巻く人間ドラマを追求して欲しかった。