プロローグが鮮烈だ。これから5年に亘る長い旅行記がまさに始まる、という冒頭を飾る大切なパートにもかかわらず、いきなり旅行を続ける意欲を消失させるエピソードから始まり、ひいては旅行に終止符を打つ決断を下すに至った旨が淡々と記されている。こんなスリリングな冒頭部を読めば、自然と高揚感は涌いてくるし、今後の展開に胸躍らせてしまう。時間も忘れ、固唾を呑んで次へ次へと読み進んでしまう。
しかしながら、読み続けていくと、驚くほどにその後はほんわかとしたムードのままゆったりとエピソードが展開されていくことに気づく。まったり感というか、やや特異な雰囲気が漂っているようにも感じる。一方では、赤裸々なプライベートに関する記述も散見され、著者がこの作品に己のすべてをさらけ出そうとする意気込みのようなものも感じ取れる。
この作品は旅行記の範疇には入ろうが、通常のいわゆる旅行記とは趣が異なる。いくつか要因はある。その最大のものは、ある地域にある程度の生活基盤を置きながらしばらく滞在し、そしてまた別の地域へと基盤を移していく、というスタイルの旅行(いや、遊牧)であったからだろう。よって滞在期間中の身辺を取り巻く物事に対する着眼点・捉え方、そしてその地域の文化を観察(探究)する視点・観点は、「旅行者」としてのそれではなく「定住者」としてのそれに近かった(それが言いすぎだとするなら、その中間にあった)ように思える。
そのような観点で書かれた文章には、独特な雰囲気が含有されている。時間の流れがゆったりしている。決してせわしない旅行記ではないのだ。やはり通常の旅行記とは趣が異なるのは自明だ。
ただあくまでも本作品は旅の1年目。すべての道程(5年間)が完結した上で、トータルで作品の評価はされるべきである。とはいえ、システム上、星による評価はせねばならないわけで、今後の更なる展開の期待を込めて、現時点では暫定的に星4つとさせていただく。