角川書店から1997年に出版された同名の本に一部加筆修正を行なって文庫化
したのが本書である。
本書は、進化論的な観点を、それまで自然科学では扱えない(扱わない?)
とされていた領域へ拡大していくことの重要性を主張する。ただし、遺伝的
決定論のように人間の行動はすべて先天的にプログラムされているという主
張ではない。
人間の適応は、遺伝子だけでなく社会制度の形成によってもなされるという
立場に立っている。例えば、人間の共同体における社会生活も、サルの集団
生活の進化形としてとらえることができるというわけだ。人間の文化は、遺
伝子には刻まれない情報ではあるが、集団的に受け継がれていくものなので、
進化論とは親和性が本来は高いはずである。ただ、社会生物学の人間への適
応は遺伝的決定論とみなされることが多いようで、著者の嘆きの声もつづら
れている。
意図するところが、進化論の応用に関する研究の大枠を提示することであっ
たため、個々は浅いが、広い範囲を扱っている。あとがきをみると、広さ
についてもまだまだ書き足りないところがあったようだ。興味がひかれた人
は、末の文献リストを参考にして読み進められるようになっている。
また、文章は非常に平易でわかりやすく書かれている。読者を飽きさせない
ように小噺?があったり、例え話を用いたりという工夫がなされている。そ
のため、内容が濃すぎて頭が疲れるということはないと思う。他の方のレビ
ューに「スタイルとして合わない人も多いと思う」とあったが、おそらく小
噺や例え話を多く挿入しているからだろう。個人的なところで言えば、特に
嫌な気はしなかった。
広く浅くなので、疑問点が頭に浮かんでは次の話次の話と進んでいく。その
ため、読み終わったときに「なるほど!」「いままでつながらなかったもの
がつながった!」というような爽快感はそれほどない。むしろ、「こう書い
ているけど、何か納得できない…」「大枠は何となくわかったけど、ここを
もうちょっと説明して欲しい…」という不完全燃焼さが残った。
(私の頭が固いということもあるのかもしれないが、)それだけ興味をそそ
る良い入門書だといえる。