この本を一気に読んで長谷川先生が授業や学会でおっしゃっていたことの真意がよく分かった。
今でこそ日本でもホットな学問分野となった行動生態学、進化心理学であるが、これは先生が若い頃になさった研究と数々の著書・訳書の成果であると思う。パイオニアであるが故(また女性であるが故)の苦悩とそれを乗り切ってきた気概とが伝わってくる内容である。
この本を読めば先生の歩んできた道筋と、世界と日本の行動生態学の変遷が分かる。今でこそ教科書にまとめられていることも、10年前まではあまり知られていなかったことに驚かされる。この半世紀の進歩は凄まじかった。
しかし、この本にも書あるように進化生物学の世界では常識となった種の保存の誤解(群淘汰の誤り)などが一般レベルのみならず他分野の生物学者にもまだ正しく理解されていないという現実がある。私自身も大学の教員と話していて感じるし、時に行動科学というものを科学と認めようとしない姿勢も見受けられる。そう判断しているのは己が進化生物学に関して無知だからということにも気付かずに!
こういう状況を考えると、先生がなぜ今まで研究施設を持たない政治経済学部で文系学生に生命科学の授業をしていたかがよく分かる。確立された分野とはいえ正しい伝承と啓蒙が必要だったのだ。
だが今年、先生は一つの決断をなさったようだ。
科学者として再び研究に専念する。そして後継者を育てる。
「動物の行動の生態、進化の研究が、結局のところ最終的に私を導いてきたところは、人間とは何かであった。まったく新しい総合人間科学というものを目指そうなどと大きなことを考えている。」
この一言を本気で言えた科学者がどれくらいいただろうか。
これほど有名になってもなお悩み、決断し「大ガラス海カタツムリ」を見つけ出していく姿勢をこの本を通して知った若き研究者や学生は、きっと自分の「新たな冒険」を見つけ出せると思う。
すでに私も。