南米チリに生まれ惜しくも50歳の若さで早世されたラテンアメリカ文学の巨匠ボラーニョが1997年に刊行し絶賛された初期傑作短編集です。本書には大きく3つのテーマに沿って書かれた14の短編が収められています。「通話」では不遇の作家の人生模様が、「刑事たち」では死と隣り合わせの男達の物語が、「アン・ムーアの人生」では多情で奔放な女達の人生が、それぞれ鮮烈に哀感を込めて描かれています。作中では間違いや哀しい出来事も多く起こりますが、著者は責める事なく静かに優しい眼差しで不器用な人々を見守っています。
『センシニ』スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と新米作家の僕との文通による友情の物語を通して、実在の作家をモデルにした苦難に満ちた人生を描きます。『エンリケ・マルティン』三流詩人エンリケと同業の僕の友情の決裂と、やがて彼が謎の首吊り自殺を遂げる悲しい顛末を語ります。『ウィリアム・バーンズ』2人の女と山小屋で暮らす男が、怯える女達に煽られて町から来た男を弾みで殺してしまう不気味な物語です。『刑事たち』軍事政権で弾圧に従事していた頃の思い出を語るチリ人刑事2人のヤバイ会話に戦慄と恐怖感が込み上げて来ます。『独房の同志』同じ時期に別々の刑務所に居た僕と奇妙な女ソフィアとの腐れ縁のような交情の日々を描きます。『アン・ムーアの人生』多情で次々と男を替え一つ所に落ち着かず世界を渡り歩いて来たアメリカ人女性アン・ムーアのタフな人生のエピソードを綴ります。最初は愛し合っていたが安定した暮らしに倦み疲れ突然あっさり彼女に捨てられた夫が、幾度も拒絶され続けた結果傷心の末に自殺します。けれど、彼女は悲しみながらも後悔せず前向きに生きて行きます。本書は他にも成功したとは言い難い人々の切なく遣る瀬無い人生模様を数多く味わえます。不器用でも一所懸命に生きた人々の過酷で壮絶な人生の物語集を心からお奨め致します。