何やらネタ切れの挙句、「途方に暮れて」しまった小説家が、
「人生論」を一席ぶつ羽目に陥ったかのようなタイトルとは裏腹に、
著者の他のエッセイ集と大差ないスタイルで書かれた本書だが、
その内容にはこれまでになく素直に共感できるように思った。
数年前、この著者を発見して次々と読み漁っていた当時、
いわゆる「フランス現代思想」的な文脈に居座った形で
書かれた文章が意外なほど多いことに気づき、
大所高所からの発言とは徹底して無縁な彼の小説作品とは
明らかに矛盾するように思えて仕方がなかったのだが、
今回、表面上はその種の文章が含まれていないことが、
個人的には高評価につながっている。
(もっとも、そんなふうに感じるのはこちらの僻目というか、
著者がその種の読書から得たものは本質的な部分で
小説作品にも大きく生かされていると考えるのが筋なのだが、
あまり露骨に出して欲しくないという気持ちはやはりある。)
また、今までのエッセイ集を読んでいる限りでは、
ものの見方が「人とは違う」ことにまずは戸惑いながらも、
そこに半ば居直っているかのような著者の姿勢に、
稚気だけではない隠れた傲慢さめいたものを感じることがあったが、
本書に限ってほとんどそういったものが感じ取れないのは、
漱石の没年を過ぎて著者の文章もいよいよ練れてきたということか。
何よりも、知識や教養の大切さをこれだけまっとうに嘘臭くなく、
しかも一片の功利性も入り込ませずに正面から説いた文章に、
最近お目にかかった覚えはほとんどなく、
それだけでも本書の存在は貴重なものだと言い切れる。
底知れない不安や寄る辺なさを感じている文学部系の学生に限らず、
何らかの創造活動に携わっている人間には、ぜひ読んでもらいたい本。