日本における超能力研究の先駆者ともいうべき人物福来友吉、そして彼の研究を巡って巻き起こった「千里眼事件」、といっても明治から大正にかけてのことなので、知らない人の方が多いかもしれない。
でも、鈴木光司の「リング」の中で山村志津子(貞子の母)と彼女の超能力を研究していたT大学助教授伊熊平八郎が超能力の公開実験中に新聞記者たちから「インチキだ!」と糾弾されたシーンを覚えている方はいるだろう。その伊熊のモデルが福来であり、志津子(あるいは貞子)のモデルが本書に登場する御船千鶴子、長尾郁子、高橋貞子である。
本書は、福来が行った数々の実験とその実験を詐欺・インチキだとする学者達、そして当時の世論の動きを、福来や他の学者達の著作や新聞記事を詳細に調べ比較することで、福来の実像とその実験の真贋に迫ろうとしている。また、著者の筆致も冷静で文章も枯れた趣きを感じさせるので、全体としては地味な印象がありセンセーショナルな作品ではない。
しかし、超能力という、信じない人は全く信じないような不思議な能力を学問として研究し、その結果大学を追われた人物を書く手法として文献の比較対象を中心にしたのは成功であったと思うし、本書が読み応えのある作品になった理由でもあったように思う。
超能力を全て信じているわけではない私が、本書を読むことによってその存在を完全に信じることができるようになったわけではない。ただ、しかし、この作品の価値はそこにあるのではなく、福来友吉という一人の学者の実像を描き出すことにあるのだと思う。
本書の題名は、福来が自身の著作のまえがきに記した「透視は事実である。念写もまた事実である」という、彼を非難する人たちに向けての宣言から引用したものである。