広告代理店天博堂の新入社員青木智也は、国民的演歌歌手である父親のコネで入社したことに少し引け目を感じている。担当しているのは公営ギャンブルである競艇のPR。そこで上司から「人気実力もナンバー1の女子フィギュア選手を競艇にスカウトしろ!」と無茶な注文が。だが彼に「競艇をやりたい」と言ってきたのは、女子フィギュアではナンバー2の山田麻美だった。ヒョウタンから駒のこのチャンスを、いかに大きな仕事に結びつけていくべきか。ライバル電豪との駆け引きもからみながら、新人広告マンの成長を描いていく。
雑誌掲載時(イブニングに連載されていた)は、広告代理店の若手社員が映画製作に関わる話として読んでいたのだが、単行本1巻ではまだ映画の話は出てきていない。しかしこの作品のテーマは、かなりはっきりとしたメッセージとして全面に押し出されている。それは「特別な才能も強運も持ち合わせない普通の人間は自分の持つコネを徹底的に利用して仕事をしろ」ということ。コネを使って仕事をするのは何か卑怯な印象があるが、要は人と人との関わりの問題だ。自分の周囲の人間関係をどう見るか。自分の周囲の人間たちとどう関わり合っていくか。そこに誠実にぶつかっていくことができる人間は、出会った人たちの信頼を得てそれを自分の強力なコネにしていくことができる。
この作品の中で、主人公の青木哲也は大物演歌歌手の息子という強力なコネを持っている。だが作中で最も大切なコネは、彼が何もないところから築いた山田麻美との信頼関係なのだ。この関係がなければ、主人公の父親がどんな大物だろうと話にならない。
破天荒なキャラクターが次々出てくるのが三田紀房の作品の魅力だが、この作品で一番破天荒なのは主人公の父、国民的な演歌歌手の塙竜太郎だ。我が子に向かって「お前は俺の残りカスだ」と言ってのける父親は、そうそういないに違いない。だが彼は息子に対して、「天から何ひとつ与えられていないお前には、コネを使って生きる権利がある。神様は……それだけはお前に与えている」とこの作品のテーマに関わることを言って聞かせるのだ。作品自体が中途半端な形で終わってしまったこともあり、この豪快な親父がその後活躍することがなかったのは残念。