人は性愛に何を求めるか?最初は単純に性的な欲望、次いで若かりし頃の純真や情熱を取り戻したいという欲望、そして自分の存在を相手に埋め込みたいという欲望... この性愛に対する欲望の深化は、人の持つ性(さが)そのものである。そして、この小説は、そうした人の性(さが)を克明に描いている。
もうひとつ、この小説が丹念に描いているのは、男女関係の妙である。こんなことを言えば(すれば)相手はこう思うだろうな、と思いつつ、違うこと、正反対のことを言って(やって)しまう。ところが、そうして言った(やった)ことを、相手はまた別の形に誤解して受け止めてしまう... そんな男女関係の機微を、メタレベルの小説視点で描写していて秀逸。
こうした男女の関係論をクリアに描き切るために、著者は前半では「金銭契約」、後半では「死」という道具立てを用いるのだが、これがまたうまく機能している。で、著者が男女関係の真髄、恋愛の究極として掲げるのが“欠落感”ってワード。「その人がいない状態、いなくなった状態の、どうしようもない欠落感。僕の考える恋愛には、それが在る。恋愛でないものには、それが無い」。やっぱ、自分が気持ち良くなりたいってのより、相手を気持ちよくさせたい、相手の記憶に己を刻み込みたいって欲望に性愛が至るのって、結局はそういうことなんだな、と納得できる。つまりは、相手に自分を“欠けたものの存在感”として認識させるってこと。この小説はさらに、その刻み方、埋め込み方も、正常位のように相対するのではなく包み込むように重なった形と、具体的な体位によってその一体感のイメージを提示している。
究極の恋愛小説ではあるけど、あまり恋愛を身近に感じられない者にとっては、いまひとつのめりこめないというか、主人公2人に置いてかれっぱなし、って感もある。恋愛を求めている人、恋愛の渦中にある人には文句無くお勧め!