直木賞作家の著者は、綿密な取材を基にした存在感のある人物描写に定評がある。本書ではふつうの主婦の心理を描いているが、うっ積した怒りや疎外感を浮かび上がらせる視線は非情なほどまっすぐで、それが紋切り型の女性像を超えた圧倒的なリアリティーを生み出している。また、次第に野生の「犬」へ戻っていくポポの姿が、家庭や社会的な圧力という足かせを外して「女」として年老いていく妙子の姿に重なるなど、平易な文章に込められたテーマは切実だ。さらに、安易な成長物語や愛犬物語を避けつつ、リアルな設定の中に逃避行という冒険的なおもしろさを盛り込んで、読み手に次々とページをめくらせる手法も見事である。
一方で、気になったのは、「冒険」と「心理描写」のバランスだ。妙子という女のリアリティーが際立ってしまって、次々に何かが起こるエンターテイメント的な早い展開とかみ合っていない部分も見られた。
いずれにしても、妙子に非日常的な冒険を体験させることで、逆に逃げられない現実の女たちに読み手の目を向けさせることに成功している。天使でも悪魔でもないふつうの女が家庭や社会の中で年老いていくとはどういうことなのか、妙子の逃避行から考えさせられるはずだ。(小尾慶一)
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