霞ヶ浦海軍航空隊に所属していた若い整備兵・望月幸司郎。外出先から隊に戻る際、最終列車に乗り遅れ激しく動揺していたとき、助けてくれたのが山田だった。年長の山田に親しみを抱き、信頼を寄せるようになった望月に、山田は航空隊が管理している落下傘を持ち出すよう頼んできた。ためらいながらも山田の求めに応じた望月だったが、それが大きな事件へと発展し、望月は“逃げる立場の人間”へと追い込まれていく。
吉村昭がいくつもの作品でテーマとした“逃亡”。この作品はその第一作と言えるもので、逃げる男の心理を、戦争という暗い存在とともに巧みに描いて、読者を離さない。
本作品の主人公は実在の人物で、吉村からの取材をきっかけに、長く封印してきた自分の過去に向き合い、それを公表するに至った。また、その様子はドキュメンタリー番組としても取り上げられたという。