本書にも描かれるアメリカ・ニューオーリンズに生まれ、優れた短編小説の書き手として注目を集めた後初めての長編小説がアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞にノミネートされた新鋭ピゾラットの話題作です。〈ポケミス新世代作家〉企画の第3弾となる本書も既訳の第1弾「二流小説家」も残念ながら2011年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞の受賞は惜しくも叶いませんでしたが、それぞれにタイプは違ってもどちらも現代ミステリーを代表する堂々たる力作である事は間違いないでしょう。本書には甘くて手ぬるく思える部分が多々あり、完璧に非情なハードボイルドを愛好する方には不満が残る出来かも知れませんが、それでも中々に味わい深い人間ドラマを内包した渋い大人の小説に仕上がっていると思います。
「取立て屋」というヤバイ闇の稼業で生きて来た四十歳の中年男ロイがある日突然苦境に立たされる。不運にも医者から癌を宣告された上に、どうも胡散臭い仕事を任されたと思ったら案の定ボスに裏切られ、辛くも死の一歩手前で踏み止まり修羅場を乗り切る。死体が転がる現場に居た唯一の生き残りの家出娘ロッキーと行き掛かりで二人連れとなったロイは追われる身となりあてどない逃避行へと旅立つ。
本書にはミステリー的な仕掛けはごく少なく、わずかに1987年に起きた過去の出来事とその約20年後の2008年の今時点を平行して描き、長い間平和だった穏やかさが破られ心が動揺する緊張感の高まりとその意外な結末の印象的なシーンが読ませ所となっています。後半に迎えるロイの敗因は十分に賢明でなく敵を甘く見て急に欲を出した事だとは言えますが、何れ遅かれ早かれ強大な組織の力により同じ結末を招いただろうと思います。前半と後半の何れでも普通は呆気なくジ・エンドとなりそうな場面で信じられない偶然の要素が働いてしぶとくロイが生き残るストーリーは甘くはありますが、著者が物事は全てが筋書き通りには行かないという運命の不可解さを示しているのでしょう。ロイが見出した人生最後の死に甲斐であるロッキーをまともに生きさせようとした試みが却って凶事を呼んだのかも知れませんが、もし二人が別々の道を歩んだとしても彼女は娼婦に身を堕す惨めな人生となったに違いなく、結局は必然の運命だったのだと思えます。ロイはまさに最期に自分の行為にも意味があったと知る事が出来て心穏やかに逝けそうなしみじみとしたラストですが、でも「二度ある事は三度」と言いますしまだ一縷の望みは残されていて、今度は冷淡な女ロレインはもういいとしてもう一度情ある女カーメンに会わせてやって再び新たな人生に踏み出して欲しいと思います。
完全に非情に徹し切れずやや甘さはある物の深みのある確かな人間性を感じさせるドラマチックな物語の書き手として今後も著者には注目して行きたいと思います。