家庭の事情で大学を休学し、伯父の古書店に住みこみで働いている芳光は、
松本から来た可南子という女性の依頼で、彼女の父が生前に書いた五篇の
リドルストーリーを探すことになる。
やがて芳光は、二十二年前の、ある未解決事件の存在を知り……。
五篇のリドルストーリー(結末を書かない物語)
が作中作として収められた入れ子構造の本作。
可南子のもとには、それぞれの小説の結末に当たる「最後の一行」が遺されて
おり、小説が発見されるごとに、対応する結末が付されていくことになります。
それにしても、可南子の父は、リドルストーリーという形式で小説
を書いたにもかかわらず、なぜ結末を別に遺していたのでしょうか?
その謎を解く過程で、芳光は、それぞれ独立している五篇の小説から共通項を抽出し、
それらと二十二年前の未解決事件との間に、どのような照応関係があるかを、手紙や
雑誌記事といった「残されたテキスト」を参照することによって、読み解いていきます。
そういった意味で本作は、過去に埋もれた
《スリーピング・マーダー》を追及する暗号ミステリなのですが、
扱われているのは、米澤さんが言うところの 〈虚空に放つような暗号〉です。つまり「読まれてはならない」
「でも、読んでほしい」という作成者の撞着が、暗号に反映されているわけです。
謎の中心となる過去の事件が単純で、その演出にも外連味がないのが、よくも悪くも
米澤流なのですが、二者択一を迫る五篇のリドルストーリーとその結末を再構成する
ことによって、語られなかった真実をおぼろに浮かび上がらせる本作の清新な手法は、
高く評価されるべきだと思います。