本巻を上梓するまでに注ぎ込んだ思いの丈は、前巻比150パーセントを誇る分厚さが、文字通り手に取るように伝えてくれる。さらに、あの街での死亡率すら霞む非常識な倍率にもかかわらず、価格はほぼ1割増に抑えたソフトバンククリエイティブの辣腕は、後藤にも匹敵する。これは、いみじくも彼が三峰に説いたとおり、この編年史が筆者の脳内から読者の手元に届くまでの「ありとあらゆる手はず」に関係した人々による尽力の賜物である。全ての『めニクル』ファンが、林や津雪にするのと等しい喝采を、彼らに惜しみなく与えるだろう。
この春の椿事のそもそもの原因は、他でもない、大幅な加筆修正である。しかも、どれもが登場人物の人格に深く食い込んでおり、単なる挿話の寄せ集めとは一線を画している。Web版からの読者は、これまでの描写から受けていた印象とは全く異なりながら、それでいて何とも「らしい」一面を目の当たりにする。ある男の落涙に、別のある男の懊悩に、違和感を禁じ得ないと同時に、すとんと得心する、奇妙な感覚。
その中でも「祭典の前夜祭」は、質量共に出色である。未読の方に配慮して敢えて詳細は述べずにおくが、これを書き下ろし短編という形で独立させたところに、構成の妙を感じる。また、描写や挿絵の雰囲気からは、笠置町翠というキャラクターが筆者にも絵師にも愛されていることが察せられた。
専らWeb版からの読者としての立場から評価してしまったが、『めニクル』がWeb版を未読でも充分に(むしろ、だからこそ新鮮に)手に汗握る物語であるということは、前巻を読まれた方ならばすでにご存じのはずだ。次巻は「1月1日」からの開始となる。刊行が今から待ち遠しい。【本文中、敬称略】