たいした娯楽もない砂漠の真ん中の町で、嫌でもみんな人生のホロ苦さを噛みしめて生きていかざるを得ない。そんな中に迷い込んだ、不器用な楽団員たちの一夜だけのささやかなエピソードが綴られます。
ストーリーの最初で想像はつきますが、この楽団はあまりいい扱いをされていないのでしょう。団長のシワの深さが今までの苦労を物語っているようです。後に彼個人の辛い過去も明らかになりますが、民族も言語も宗教も違ってもみんな同じように人生の重荷に耐えて生きているんだとわかり合えた時、傷の舐め合いとは違う自立した人間同士の心の交流が生まれます。
音楽が人の心を変える―と言っても、劇的な物語が生まれるわけではありません。寂しい町の片隅で不器用に生きる素朴な人達の人生がほんの一瞬交錯しただけの、取るにも足らないようなありふれた出来事・・・その中で確かにわかり合えたのは、人生の悲哀を知り尽くした団長と女主人、付け加えるなら最初は何を考えているのかよくわからなかったナンパ男が「なんだ、こいつイイ奴じゃん」と思えた瞬間でしょう。
夜中に物音の真相を覗き見た時の苦笑い、それをおくびにも出さず最後は遠慮がちに手を振りながら去っていく団長、そして、黙って彼についていく男達・・・結局何が変わったわけでもなく、人々はまたいつも通りの日常に戻って、彼らのことも次第に忘れ去られていく運命なのでしょう。
ハッピーエンドと言うのには少し違和感がある、やりきれなさに満ちた日々が同じように続いていく淡々とした物語。それがどこか胸にジンと来るのは、他ならぬ自分自身がそうした思いを抱えている一人であるから―と考えていいのでしょうか。その意味では、観る側にもある程度のハードルを要求している、大人のための作品だと思います。