本書は、日本の自然科学教育・研究の現状をルポした理系白書3部作の3作目で、iPS細胞が生まれる過程など現在の日本における自然科学研究の現状に焦点を当てた作品だ。
具体的な数字やインタビューを示し内容に説得力があるのは、1・2作目と同じである。
本書によれば、日本の自然科学研究は、政府からの支援事業で失敗が多かったり、日本人研究者や技術者(以下、すべて自然科学)が海外に流出したり、様々な問題を抱えている。本書は研究者の比較的待遇の悪い研究環境や、政府からの支援が十分でないことを批判的に記述する。
まず、政府からの支援も、応用研究への支援もかなりあるようだが、そもそも研究は成功する確率はかなり低いのではないか。1万分の1とか(私は数字を全くしならいので専門の方教えて下さい)。であれば失敗が多いことは当たり前であるし、また、研究ではむしろ失敗することが大切だとの考え方も多い。だから、政府からの支援が失敗することは本当に悪いのか、という疑問があるが、だからといって失敗ばかりで許されるというわけではない。
このように政府からの支援の理想的なあり方を探るのは難しいが、私は、同じ失敗でも基礎研究であれば、内容をオープンにできるので失敗も受け入れられやすいように感じる。であれば、政府からの支援は基礎研究に限った方がいいと思えるが、詳しい方教えてください。
つぎに、本書は、そもそも日本人研究者や技術者が海外へ流出(進出?)することは悪いことなのか、良いことなのか、についての議論を軽く見ている。つまり、本書のインタビューでもしばしば触れられているように、日本人研究者や技術者が世界へ進出することは、むしろ日本の国際的な評判を高めるものとして、好意的に捉える考え方もある。
だからと言って、すべての技術や研究をオープンに出来るわけではない。基礎研究であれば日本企業の利益への直接的な貢献度はかなり低いのでオープンにできるが、応用研究や技術であれば日本企業の利益への直接的な貢献度はかなり高く、それが盗みやすいものであれば、なおさらオープンにできない。
本書にもあるように、技術や研究をオープンにすることは世界経済に貢献するという意味でも、技術や研究がより洗練されるという意味でも、必ずしも悪いことではないし、むしろ良いとさえ言える分野もある(例えば、次を参照『
ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』)。
したがって、今後日本にとって問題となるのはオープンにする研究技術の範囲なのである。
なお、本書は、こういった面白い問題を再確認させてくれるが、本書の論調は、政府からの支援の失敗や研究者の海外進出に否定的である。端緒はそこにあったのかもしれないが、私はこのレヴューで指摘した通り、大切な論点はそのそもそも当否にあるのではないか、と考えるので、評価はマイナス1の4とした。