日本の人口が2050年には9,000万人を割るであろうと推定されている縮小社会。
その中で賃貸物件のオーナーは将来的な空室の増加・賃料の低下が避けられず、破産・デフォルトの危機に怯えている。
昨今、多くの不動産投資本はあれど、この将来的な賃料低下や空室の増加に対する具体的な対抗手段を提示できた事例は少なく、
それが逆説的に「やはり人口の減少が避けられない日本での不動産投資は危険」という論を勢いづかせる最大の理由になっているように思う。
確かに物件は年を追うごとに新規で建築されていき、明らかに「供給過剰」。
でも建設会社・建築会社が存在する限りは「建築するのを止めるわけにはいかない」という矛盾。
立地のいいところに物件を持っていれば大丈夫という人もいる。だが、好立地には多くの人間が集まり物件が乱立する。
そうなると「ライバル物件が増え過ぎ」で、結局のところ供給過剰で先に首が締まるのは借主よりも貸主のようだ。
そんな需給のバランスが大きく崩れている賃貸物件の世界で自分の所有物件が選ばれるための「差別化」が声高に唱えられている。
・ペット可能マンション
・バイク可能物件
・外国人入居可能物件
・お洒落なデザイナーズマンション
などはその例の最たるものであろう。
だが、それらは経年による建物・設備の劣化によって入居者が相場の賃料では付かなくなったオーナーが取る苦肉の策でしかなく、
ライバル物件のオーナーもさしたる設備投資もなく追従することで何ら「差別化と呼べるほどの希少性」はなくなってしまった。
このような事実を踏まえて著者は叫ぶ。
「こんなものは差別化とは呼べない。小手先の一時しのぎの誤魔化しに過ぎない」と。
昨今の借主優位の風潮にも警鐘を鳴らす。
募集時の「敷金」「礼金」は言うに及ばず更新の際の「更新手数料」でさえも取れないような事態は異常だと。
物件自体の価値を借主に納得させられないから賃料を下げ、敷金・礼金を取れない言わば「値下げのスパイラル」に巻き込まれてしまうのだ。
こんな借主と貸主が対等でない市場が続けば、将来的には物件のリフォームが行えずそれによって経営が破綻するオーナーが続出して、
結局のところ借主・貸主の双方が困るという最悪の事態を招くだけであろう。
でも、そんなことを言ったって「差別化できる物件」って何さ?というのが誰しもの胸に浮かぶ疑問だろう。
その疑問に対して著者が出した答えが「ミュージックマンション」だ。
分かり易くいうと「楽器演奏が可能な特殊な防音設備を建築当時から完備したマンション」のこと。
実は「楽器演奏可能」な物件はペット可能マンションよりも数が少なく、仮にあっても
防音設備が完璧ではなく、他人の出す音のストレスに精神を苛まれ、さらに自分の出す演奏の音が他人の迷惑になるのかとビクつく日々。
そんな日々を送っている音楽学生やミュージシャン・演奏家の卵たちは意外に多いらしい。
実は音楽は人間の生活の中で非常に身近なもので、楽器を演奏したり音楽に関係する職業に就いている人間でなくとも
日常生活の中で音楽を聴いたりする人間は少なくないのだ。
その中でも特に音楽を愛している人間が音楽を趣味としたり職業としたりするわけだが、
どういうわけかこれまでの日本では住宅は「そういった人々の需要には冷たかった」のだ。
防音設備が整った、部屋で思う存分楽器を演奏したり音楽を聴いたりできる物件はほとんどなかった。
ここに前述のペット可能・外国人入居可能などとは異なる「真の差別化物件」が誕生する。
需要は毎年のように入学する音楽関係の学校に通う学生がおり、
さらには大人になってからでも新たに音楽の趣味に目覚めたり、音楽関係の仕事に就く人間も少なくはない。
ようするに毎年のように一定の需要が見込まれ、それが将来においても大きく減少することはないといえる。
それなのに前述のように防音設備の整った物件は少ない。
ここに賃貸相場でも珍しい「需要過多」な分野があったのだ。
数少ない防音設備の整ったマンション「通称・ミュージション」は
近隣の物件の多くが敷金・礼金が取れず、築年の経過と共に賃料を下げていく中、
築10年を超えても賃料を下げることなく、むしろ部屋によっては上げても入居者が決まる状態で満室運営を続けている。
何故、入居者は周辺相場よりも高い賃料を支払ってまでもミュージションに入居するのか?
それは音楽を趣味にしている人や職業にしている人にとって音楽は日常の生活空間になくてはならないものだからであり、
そういった人々にとっては気兼ねなく音楽と触れ合えるミュージションには高い家賃を支払ってでも住む価値があると感じているからだ。
ミュージションには音楽愛好家が多く集まる。それは趣味を共通するものたちのコミュニティを形成し、多くの人の運命を変える出会いすらも演出する。
本来の生活空間とは、住まいとはドラマを提供する場でもあったはず。
だが、昨今の都会の生活は隣の部屋に誰が住んでいるのかも判らないという人間関係の希薄さ。
そんな世界にドラマが生まれるはずもない。ミュージションを提案する著者は人と人とのドラマの演出家でもあろうとするのだ。
だが、このミュージション計画とて当初から順風だったわけではない。
初めて完成した物件は全てが手探り状態。入居付けの賃料を間違えたために入居者の質が落ちて苦労したり。
設備に問題があり、防音が完璧でなかったりと、試行錯誤の繰り返しの中でノウハウを蓄積してきた。
それが今日の成功に繋がっているのだ。
惜しむべくはこれらの物件は既に完成済みの物件を変更させることは出来ない点。
更地にマンションを建てるという段階でしかミュージションを導入することはできないのだ。
だから、現状ではこの本は「土地の有効活用を検討している方」に絞られてしまうことだろう。
もし、自身で土地をお持ちで有効活用を検討している方ならばミュージションについて知っておくに損はないであろう。