他の溝口作品同様、絶対的な悲劇の強度と絵画的な美しさに溢れた映画。近松の原作はこの映画よりもっと淡白な話で短い。登場人物の内面をこってり描いた近代小説に慣れた僕は、初めて近松作品を読んだとき、そのあっさり感に面食らってしまったのを覚えているが、実際の死や事件というものは傍から見ると彼が描いたように唐突でコロンとしたものでもある。そこに死が身近だった江戸時代のリアリティがあるような気が最近はしている。
溝口作品の演出上の特色としては、絵画的な美しさが至上命題となるため、役者の表情や台詞回しに頼るTV時代の「首から上中心の演技」よりは、寧ろ身体全体を使ったダイナミックな動きやビジュアルが優先されている点が挙げられる。(二枚目俳優としての自負から「首から上」の芝居に拘った長谷川一夫と溝口が衝突するのは必然であった。)このため登場人物への感情移入よりも、目の前で展開する映像世界の像とスピードに観る者の意識は惹き付けられる。この受身感というのは、実は上記のような江戸のリアリティに通底するものだ。徹底的に演出された溝口作品のもつリアリズムというのは、こういうところにあるのだと思う。
それにしても、この映像の美しさとは全く対照的な、ショボいDVDジャケのデザインはどうにかならんものか。