科学史、比較文化史の巨人である伊東俊太郎氏の著作です。金子務氏の的確な解説に今更加えることもないのですが、レビューがないのも寂しいので二、三述べます。
解説通り、中世科学を明晰かつ広範に論じた名著であり、素人のわたしでも面白く読むことができました。文献や人間の移動による知の伝播や政治、精神史的背景が流麗な筆致で語られ、そのあたり、科学の変遷のみを述べる狭義の科学史とはなっていません。広く「歴史」に根ざした視点が感じられます。
また、伊東氏は必ずしも近代科学を最も優れたものとは思わず、数多くある「知の体系」の一つと認識しており、古代、中世、近世の科学を「劣ったもの」とはしていない。そのあたりも読んでいて、とても快く感じました。更に言うなら、空間的にも、西洋に必ずしも重点は置かず、むしろアジアの役割を非常に重視し、東西交流史的視点からも論じておられる。非常に示唆に富む著書です。
シリア語やアラビア語の原典への言及など、その広範さには舌を巻きます。凡例が最初に明確に述べられ、巻末の索引は豊富で、とても誠実に作られた本だと思いました。申し分などありようもなく、星五つとしました。
なお、数式等も出てきますが、とりあえずは高校生程度の知識で十分だと思います。