本書は、幕末にオランダに留学して自然法、国際法、国法学、経済学、統計学を学んだ西周・津田真道、オランダ人ローマ法学者の著書を通じて、日本近代法制整備の道を模索した小野梓の事績を通じて、近代日本の政治構想とオランダ法学との関係を解き明かしたものです。
著者は、西らが師事したフィッセリングの講義録などの一次史料を精査し、フィッセリングの法思想が18世紀的な自然法思想に基づくものではなく、法を歴史的に形成された産物とみなす歴史法学に立脚し、当時のオランダの立憲体制を発展させようとする実践的な性格の強いものであり、また彼の統計学・経済学は、経験主義的に具体的な事物を探求するという点で、彼の歴史法学的な思考と符合しており、さらに彼の国際法学も、「人類という大きな共同体」に関するものと言うより、実定的な「諸国家間の法」を対象とするものであることを明らかにします。
このような教えを受けた西や津田は、西洋の歴史的所産である西洋近代法制を歴史的文化的条件を異にする日本に根付かせるために、自由貿易や無条件の内地雑居によって、日本の開化を促進させようとします。しかし当時の国際社会の現実の中では、彼らの説は必ずしも現実に適合したものとはいえませんでした。
オランダ法学の影響の下に、直訳的な西洋法制の受容を批判し、日本の法的な伝統の掘り起こしに努めた小野梓も西・津田と同種の問題意識を抱いていたといえます。彼の仕事は明治憲法に一定の寄与をしていますが、天皇主権、家族国家観による明治憲法体制は小野の苦闘を骨抜きにするものではなかったか、と著者は嘆きます。西・津田・小野らの苦闘と挫折は、今もわれわれを考え込ませるものがあります。