戦後日本で当然とされてきた近代天皇制研究は過去のものかという明確な問題意識を持っていた著者の最後の労作。「歴史学の王道を行く重厚でオーソドックスな仕事」、「学問的には厳しいが、暖かい人」との評価を加藤哲郎一橋大学名誉教授がブログに載せている。
専門研究の第一部「日本ナショナリズムの特質と国民国家」、第二部「近代天皇制の政治構造把握への基礎的視角」の解説は手に余るが、第三部「日本型立憲君主制と天皇」の第5章から第8章までの昨今の天皇の戦争責任回避論に対する反論と批判の筆は鋭くかつ厳しい。天皇の平和主義志向と好戦的言動を並置して相対化して戦争責任を否認する“大家”秦郁彦を「論理が成り立たない」と批判し、さらには“新進気鋭”の伊藤之雄の戦前天皇制を一般的な立憲君主制と捉え、従って責任は一握りの「君側の奸」にありと結論する論を、論拠なしの評価と推定による断言に基づく“似非実証論”であると批判。その上、相手の見解を歪曲し、使ってもいない用語をあみだしてレッテルを貼るような伊藤の議論を、「非学問的なもので学問的作法に反している」と完膚なきまでに論破している。終章は書下ろし論文「日本型立憲君主制と昭和天皇」も専門家向け。
掛け値なしの専門書であるが、その問題意識と時代精神を少しでも真正面から受け止めたいものである。今となっては短い日々であったが、縁あって時と場所を共にした者として、どうしても書評を墓前に呈しておきたい。合掌。