とにかく「勢い」を感じさせる作品です。きっと今のヒカシューには、創作意欲が溶岩のように沸き立っているのでしょう。そうでなければありえない、そんな風に思えてしまいます。
冒頭の「ニコセロン」は、まさにその表れ。鋭いファンクのビートに乗ってバスクラリネットが縦横無尽に動きまわり、歌詞も短く呼びかけるような言葉の連続で、じわじわと迫ってきます。歌唱も演奏もとにかく煽りまくり。全体的に、作りこみの対極にあるような荒々しさにあふれています。
そこからさらに、怒涛の展開となります。全員が一丸となって急速調で疾走する「事態は絶対」、重厚なギターのリフに喉の奥から絞りだすような声が連なる「外ではほらきみが降ってる」と続き、ヒカシュー独特の、頭の中をひっかき回されるような感覚に襲われます。
とはいえ、押せ押せの一本調子でもありません。ギター、コルネット、ピアノが美しく響く「真夜中の猫歩き」、のどかな田舎の一日といった趣きの「玄関模様」、まさに大陸的な広がりを感じさせる「ユウトリウス」のように、静かな局面も多々あります。
おそらくこの作品、かなりの手早さでこしらえたものではないか、という気がします。素材そのものには長い時間がかかっているかもしれませんが、ひとたび材料がそろってからは、実際の形にするまでの工程を、えいやという感じで一気にやってしまったのではないかと。だからこそ「勢い」が現れているし、それこそ何かにつき動かされるようにして出来てしまったもののように思えるのです。
10年間もの熟成期間を置いた『鯉とガスパチョ』の次がこれ、というのはあまりにも出来すぎな感じで怖い(?)ような気もしますが、とにかくただならぬ作品です。30年以上続いているバンドがこんな展開を見せるなんて、そうあることではないでしょう。騒々しいところも、静かなところも、聴いていて不思議なほどの高揚感に見舞われてしまいます。実際、ひどく興奮させられました。ありきたりな音楽に飽き足らない方、ぜひどうぞ。